骨吸収マーカーの数値が「正常範囲内」でも、骨折リスクは依然として高いままのケースがあります。
骨代謝マーカーは大きく「骨形成マーカー」と「骨吸収マーカー」の2種類に分けられます。それぞれが骨リモデリングの異なるフェーズを反映しており、どちらか一方だけを見ていると治療評価を誤ることがあります。
臨床で最もよく使用される3つのマーカーと、その基準値を以下にまとめました。 ike-seikei(https://ike-seikei.jp/home/osteoporosis-marker/)
| マーカー | 種別 | 閉経前女性 | 閉経後女性 | 男性 | 最少有意変化(MSC) |
|---|---|---|---|---|---|
| intact P1NP | 骨形成 | 14.9〜64.7 μg/L | 27.0〜109.3 μg/L | 19.0〜83.5 μg/L | 12.1% |
| BAP | 骨形成 | 2.9〜14.5 U/L | 3.8〜22.6 U/L | 3.7〜20.9 U/L | 9.0% |
| TRACP-5b | 骨吸収 | 120〜420 mU/dL | 250〜760 mU/dL | 170〜590 mU/dL | 12.4% |
P1NPは新しい骨コラーゲン(I型コラーゲン)が合成される際に血中へ放出されるペプチドで、骨形成活性を鋭敏に反映します。 BAPはアルカリフォスファターゼの骨特異的アイソザイムで、骨芽細胞の活性度を示します。一方TRACP-5bは破骨細胞が活性化した際に血中へ分泌される酵素で、骨吸収を直接反映する指標です。 ar-ex(https://ar-ex.jp/column/column-4157/)
つまり、この3つをセットで評価するのが原則です。
TRACP-5bが309 mU/dL以上で骨量減少リスクが高まり、420 mU/dLを超えると骨折リスクが有意に上昇するとされています。 この数字を頭に入れておくだけで、投薬開始の判断がより根拠のあるものになります。 ike-seikei(https://ike-seikei.jp/osteoporosis-test-blog/)
骨形成マーカーが単独で高値を示すことは少ない点も見落とせません。 骨形成は骨吸収に刺激されて開始されるため、骨吸収マーカーが先に上昇し、それに続いて骨形成マーカーが上がるというシーケンスが基本だからです。これは使えそうです。 jsbmr.umin(https://jsbmr.umin.jp/basic/kotutaisha_ma.html)
骨代謝マーカーの測定で最も見落とされがちな落とし穴が、日内変動です。
骨代謝は夜間から早朝にかけて最も亢進します。 そのため多くの骨代謝マーカーは朝に高く、午後に低い値を示します。 特に尿中マーカー(NTx・DPD・CTXなど)は日内変動に加えて日差変動(日をまたいだ変動)の影響も大きく、同じ患者でも採取条件次第で値が20〜30%以上ブレることが報告されています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AA%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC)
意外ですね。
血液マーカーであるTRACP-5bやBAPは尿中マーカーと比べて日内変動が相対的に小さく、腎機能の影響を受けにくいとされています。 これが「骨粗鬆症診療における骨代謝マーカーの適正使用ガイド」でTRACP-5b・BAP・P1NPが推奨される主な理由のひとつです。 ike-seikei(https://ike-seikei.jp/osteoporosis-test-blog/)
測定条件の統一が条件です。
経過観察を行う際は、以下の点をルール化することで測定値の信頼性が大幅に上がります。 hkk.co(https://www.hkk.co.jp/cms/?p=800)
施設間で基準値が異なる点も重要です。 検査会社が異なると正常範囲の設定が変わるため、転院患者の過去データと単純比較する際には、どの施設・測定系での値かを必ず確認してください。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2007/073051/200722052A/200722052A0006.pdf)
骨代謝マーカーの最大の臨床的意義は、骨密度より早期に治療効果を検出できる点にあります。 clinic.adachikeiyu(https://clinic.adachikeiyu.com/207)
骨密度(DXA)の変化が測定値に反映されるまでには通常1〜2年かかります。それに対し骨代謝マーカーは投薬開始から3〜6ヶ月で有意な変化が現れます。 この差はなかなか大きいです。 ike-seikei(https://ike-seikei.jp/home/osteoporosis-marker/)
治療効果を「あり」と判定する基準は、以下の2つのどちらかを満たすことです。 imed3.med.osaka-u.ac(http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu08-3.html)
最少有意変化(MSC: Minimum Significant Change)とは、測定誤差ではなく治療による真の変化と統計的に判断できる最低限の変化率のことです。 BAPのMSCは9.0%で3種の中で最も小さく、わずかな変化も検出しやすい特徴があります。 eiken.co(https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/2016_09/002.pdf)
治療継続率にも直結します。骨吸収抑制薬の使用で骨代謝マーカーが30%以上低下した場合、治療継続率が向上し、椎体骨折の発生率が低下するという臨床データもあります。 imed3.med.osaka-u.ac(http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu08-3.html)
骨形成促進薬(PTH製剤など)の場合は逆方向の変化を見ます。骨形成マーカーが6ヶ月後に25%以上上昇していることが有効反応の目安です。 方向性が逆転することを忘れないよう注意が必要です。 imed3.med.osaka-u.ac(http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu08-3.html)
臨床現場でよく混乱するのが、骨代謝マーカーの保険算定ルールです。
骨吸収マーカーは①治療開始前に1回、②治療開始後3〜6ヶ月以内に1回、の計2回が保険適用の基本です。 薬剤を変更した場合に限り、変更後6ヶ月以内に再度1回の測定が認められます。 一方、骨形成マーカーの測定回数に関する保険上の制限は設けられていません。 diagnostics.yamasa(https://diagnostics.yamasa.com/wp-content/uploads/2018/01/YAMASA_BAP_keimou_A4_2P_20171220.pdf)
これだけ覚えておけばOKです。
具体的な運用フローを整理すると以下のようになります。 imed3.med.osaka-u.ac(http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu08-3.html)
骨形成マーカーが基準値下限以下の状態が長期にわたって続く場合は、過度の骨代謝抑制を疑い、休薬や薬剤変更を検討する必要があります。 「数値が正常範囲に収まっているから安心」という判断がかえってリスクになるケースがある点に注意してください。 imed3.med.osaka-u.ac(http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu08-3.html)
骨吸収マーカーと骨形成マーカーで保険算定上の扱いが異なる点は、特に研修医や新人スタッフへの教育場面で漏れやすい情報です。院内の検査オーダーマニュアルに明記しておくことで、算定漏れや過剰算定を防ぐことができます。
骨粗鬆症の治療評価では骨密度が主役として扱われがちですが、骨強度の約30〜40%は「骨質」によって決まるとされています。骨質が悪いです。
骨質を構成するのは骨コラーゲンの架橋構造や微小損傷の修復能力であり、これらは骨密度の数値には直接反映されません。 つまり、DXA正常値でも骨質が低下していれば骨折リスクは高いままという状況が起こりえます。 josteo(http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2018_02.pdf)
これが冒頭で述べた「基準値内でも骨折リスクが残る」理由の本質です。
骨代謝マーカー、特にP1NPの動きは骨コラーゲン合成の活性を間接的に示しています。 P1NPが治療によって適切なレベルまで回復してきているかを確認することは、骨質改善の代替指標として重要な意味を持ちます。 ar-ex(https://ar-ex.jp/column/column-4157/)
また、骨吸収マーカーが基準値以下に過度に抑制されている場合は要注意です。 エルデカルシトール(活性型ビタミンD3)はマーカー値を基準値以下に抑制しないことが確認されていますが、ビスホスホネートの長期使用では骨代謝が過剰に抑制され、微小骨折の修復が遅れる「骨過剰抑制」状態になるリスクがあります。 josteo(http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2018_02.pdf)
以下のような臨床サインが重なる場合は、過剰抑制を念頭に置いた評価が推奨されます。
骨代謝マーカーを「治療が効いているかどうかの確認」だけに使うのは、その潜在的な情報量の半分も活用できていないといえます。骨吸収マーカーの過度な低下もひとつのシグナルとして読む視点が、より精度の高い骨粗鬆症診療につながります。
日本骨粗鬆症学会が公開している「骨粗鬆症診療における骨代謝マーカーの適正使用ガイド」は、最新の基準値と使用方針を網羅した実践的な資料です。外来診療での判断に迷ったとき、最初に参照すべき一次情報源です。
日本骨粗鬆症学会「骨代謝マーカーの適正使用ガイド」(PDF):基準値・MSC・治療フローが一覧できる公式ガイドライン
日本骨代謝学会「骨代謝とは」:骨リモデリングの基礎と各マーカーの役割を解説した公式解説ページ