HFpEFの患者の約80%に肺高血圧症が合併しており、それだけで死亡率が大幅に上昇します。
HFpEFは「Heart failure with preserved ejection fraction」の略称で、日本語では「左室駆出率が保たれた心不全」と訳されます。 読み方は「ヘフペフ」で、かつては「拡張不全」「拡張性心不全」と呼ばれていた疾患概念と重なります。 medicalnote(https://medicalnote.jp/diseases/HFpEF)
病名として重要なのは「心不全なのに収縮機能は正常」という矛盾に見える点です。 具体的には、左室駆出率(LVEF)が50%以上に保たれているにもかかわらず、息切れ・浮腫などの心不全症状が出現します。 つまり「ポンプは動いているのに心不全」という状態です。 med2.daiichisankyo-ep.co(https://med2.daiichisankyo-ep.co.jp/cardiology/knowledge/heart_failure02.php?certification=1)
HFrEF(LVEF 40%未満)、HFmrEF(LVEF 40〜50%)と並ぶ心不全の分類の一つで、この3分類は現在の心不全診療の基本骨格となっています。 分類を覚えるだけで診断の方向性が変わります。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1542202972)
| 分類 | 読み方 | LVEF基準 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| HFrEF | ヘフレフ | 40%未満 | 収縮機能低下が主体、薬物療法の選択肢多数 |
| HFmrEF | ミッドレンジ | 40〜50% | 中間型、両方の特徴を持つ |
| HFpEF | ヘフペフ | 50%以上 | 拡張障害が主体、高齢・女性に多い |
見逃されやすい最大の理由は「心エコーで収縮機能が正常に見える」点です。 心臓が血液を送り出す力(LVEF)は保たれているため、「心臓は問題ない」と判断されることがあります。しかし実際には拡張期の充満障害が潜在しています。 doctorbook(https://doctorbook.jp/contents/511)
日本は急速に高齢化が進む国であり、心不全全体の患者数増加から「心不全パンデミック」とも表現されています。 高齢患者で心不全を疑う場面では、LVEFが正常でも拡張機能評価を必ず行うことが原則です。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26660)
HFpEFの中心にあるのは「左室拡張能の障害」です。 心臓が十分に拡張できないため、拡張期充満圧が上昇し、その圧力が左房→肺静脈→肺毛細血管へと波及します。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26660)
左房圧が慢性的に上昇すると左房のリモデリングが起こり、さらに肺高血圧症(PH)へ進展します。 注目すべき数字があります。HFpEF患者の約80%に肺高血圧症が合併するとされています。 肺高血圧症を合併すると死亡率が著明に上昇します。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26660)
肺高血圧症はやがて右室への負荷を増大させ、右室収縮障害に至る可能性があります。 左室の拡張障害が出発点であっても、最終的に両室が障害されるという多臓器連関が起きるということですね。こうした病態の連鎖を理解することで、早期介入の重要性が明確になります。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26660)
長らくHFpEFには「生存率を明確に改善する薬がない」という状況が続いていました。 HFrEFでは効果が確立されているACE阻害薬・ARB・β遮断薬が、HFpEFでは同じように使っても生存率改善が示せなかったためです。 myc-hondaiin(https://www.myc-hondaiin.com/blog/%E5%BF%83%E4%B8%8D%E5%85%A8%E3%81%AB%E3%81%AF3%E3%81%A4%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%97%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%A3%E3%81%A6%E7%9F%A5%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%9F%EF%BC%9Fhfpef%E3%80%81hfmre/)
この状況を変えたのがSGLT2阻害薬です。 元々は糖尿病治療薬であるダパグリフロジンやエンパグリフロジンが、HFpEF患者の心不全による入院を抑制するというデータが報告されています。 ヨーロッパ(ESC)ではすでに心不全治療薬として推奨に組み込まれています。 これは使えそうです。 doctorbook(https://doctorbook.jp/contents/511)
ただし、SGLT2阻害薬の使用に際しては注意点もあります。2025年の筑波大学の研究では、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬を併用した場合の転倒リスクのオッズ比が2.89と、単独使用(1.80)より大幅に上昇することが報告されています。 HFpEFは高齢者に多い疾患であるため、この転倒リスクは特に臨床的に重要な情報です。 pinokio-pharma(https://pinokio-pharma.com/wp/category/%E5%87%BA%E9%A1%8C%E4%BA%88%E6%83%B3/)
| 薬剤 | HFpEFへの効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン等) | 心不全入院抑制のエビデンスあり | 高齢者での転倒リスク増加 |
| ACE阻害薬/ARB | 血圧・症状管理に使用 | 生存率改善のエビデンス弱い |
| 利尿薬 | 浮腫・うっ血の症状緩和 | 過剰利尿による前負荷低下に注意 |
| β遮断薬 | 心拍数管理・合併症対応 | HFpEF単独での予後改善は未確立 |
HFpEFは高齢女性に特に多い疾患であることが知られています。 高血圧・肥満・糖尿病・慢性腎臓病などを背景疾患として持つ患者が多く、これらは全てHFpEFのリスク因子です。 jhf.or(https://www.jhf.or.jp/check/heart_failure/03/)
「年のせいで息切れがする」と患者自身が思い込んでいるケースが見逃しを招きやすい要因の一つです。 高齢者の息切れ・浮腫を「加齢変化」として片付けず、心不全の可能性を念頭に置くことが重要です。息切れは必ず評価が必要です。 jhf.or(https://www.jhf.or.jp/check/heart_failure/03/)
現場での実践として有用なのが、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNPによる心不全のスクリーニングです。心不全の有無を迅速に評価できるマーカーで、LVEFが正常であっても上昇する場合があります。HFpEFを疑ったら、まずBNP測定と心エコーによる拡張機能評価が基本です。
HFpEFの生命予後はHFrEFと同等の心血管死・再入院リスクを持つとされています。 「収縮機能が保たれているから安心」という判断は危険です。早期診断・早期介入がこの疾患でも患者の予後を左右します。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1542202972)
以下のリンクは、HFpEFの診断基準・病態・治療について権威ある情報源です。
HFpEFの診断基準と最新治療方針(J-CLEAR通信、日本医事新報社)。
https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26660
HFpEFの病態・症状・診断について(メディカルノート)。
https://medicalnote.jp/diseases/HFpEF
HFpEFの治療と予防法(doctorbook.jp、群馬大学医学部附属病院 循環器内科 監修)。
https://doctorbook.jp/contents/511