接種から3年が経っていなければ問題ないと思っていたなら、ワクチンの種類を確認しないまま「まだ大丈夫」と案内して患者を無防備にさせているかもしれません。
現在、日本で接種できる腸チフスワクチンは主に2種類あります。いずれも輸入ワクチンであり、国内で製造・承認されたものは存在しない点が大前提です。 sendagaya-ic(https://www.sendagaya-ic.com/infection_typhoid)
Typhim Vi(サノフィ・パスツール製、Vi莢膜多糖体ワクチン)は、筋肉内または皮下注射1回接種で、接種後約2週間で免疫が成立します。 有効期間の目安は3年間とされており、リスクが続く場合はWHOも3年毎の再接種を推奨しています。 接種対象は2歳以上です。 vaccine4all(https://www.vaccine4all.jp/news-detail.php?npage=2&nid=137)
Typbar TCV(Bharat Biotech製、Vi結合型ワクチン)は「世界初の結合型腸チフスワクチン」です。 多糖体型と比べてT細胞依存性の免疫応答を誘導するため、抗体価の持続期間が長く、有効期間は5年間が目安とされています。 接種対象は生後6か月以上45歳以下で、妊娠中・授乳中は接種不可です。 ohigesensei-kodomoclinic(https://www.ohigesensei-kodomoclinic.com/pg120.html)
つまり、同じ「腸チフスワクチン」でも有効期間が最大2年異なるということです。
| 項目 | Typhim Vi | Typbar TCV |
|---|---|---|
| 製造元 | サノフィ・パスツール | Bharat Biotech |
| ワクチン種別 | Vi莢膜多糖体型 | Vi結合型(TCV) |
| 接種回数 | 1回 | |
| 接種対象年齢 | 2歳以上 | 生後6か月以上45歳以下 |
| 有効期間の目安 | 3年 | 5年 |
| 再接種推奨間隔 | 2〜3年毎 | 5年毎 |
| 妊娠中・授乳中 | 要相談 | 不可 |
| 1回あたり費用目安 | 7,000〜10,000円 | 施設により異なる |
これが基本です。患者への説明前にどちらのワクチンを使用しているか必ず確認することが重要です。
有効期間が3年または5年あれば安心、と思っていませんか。
有効期間内であっても、ワクチンの発症予防効果は100%ではありません。Typhim Viの国内第Ⅲ相臨床試験では、接種28日後の抗体陽転率(抗Vi抗体価が4倍以上上昇した割合)は92.0%でした。 これは非常に高い数値に見えますが、約8%の被接種者では十分な抗体応答が得られていないことを示しています。 nobuokakai.ecnet(https://nobuokakai.ecnet.jp/info/4491/)
南アジア渡航者を対象とした米国の研究では、腸チフスワクチンの発症予防効果は80%(95%CI:66〜89%)と報告されています。 つまり、接種済みであっても20%程度は感染・発症する可能性が残ります。これは痛いですね。 banno-clinic(https://banno-clinic.biz/typhoid-vaccination/)
さらに重要な点があります。腸チフスワクチンはパラチフスには無効です。 腸チフスに似た症状を示すパラチフス(Salmonella Paratyphi A感染)に対して、現行ワクチンは交叉防御を示さないため、渡航者が「ワクチンを打ったから大丈夫」と過信するリスクがあります。食事・水の衛生管理との併用が必須です。 travelclinic.jihs.go(https://travelclinic.jihs.go.jp/021/Typhoid.pdf)
pro.campus(https://pro.campus.sanofi/dam/jcr:e8618cf3-e9bc-4ea6-9bd8-a5de02e3275a/typhim_vi_rmp_01.pdf)
ワクチンは「リスクを下げるツール」であり、「完全な防御盾」ではないということですね。
参考:タイフィムブイアイ添付文書(サノフィ・パスツール、RMP資料)
タイフィムブイアイ RMP資料(サノフィ・パスツール)|有効率77%のエビデンスと安全性情報を確認できます
「渡航1週間前でも間に合う」は誤りです。
腸チフスワクチンは、接種後に免疫が成立するまで約2週間かかります。 渡航直前の接種では出発時点で十分な防御免疫が整っておらず、高リスク地域に入ってから最も感染リスクが高い状況になりえます。渡航前最低2週間での接種が必要です。 mymc(https://mymc.jp/outpatientconsultation/travelers/typhoid-fever/)
実際の接種スケジュールを組む際、以下の流れが原則です。
再接種のタイミングにも注意が必要です。Typhim Viを使用していた患者がTypbar TCVに切り替えた場合、有効期間のカウントは新たな接種日からリセットされます。前回接種から3年未満であっても、異なるワクチンへの切り替え接種は可能ですが、医師への確認が必要です。これは必須です。
また、腸チフスの流行地域として特に注意が必要なのは、インド・バングラデシュ・パキスタンなどの南アジア諸国です。 特に長期滞在者・現地赴任者は2〜3年ごとの継続的な再接種が推奨されており、接種歴の記録管理が現実的なリスク管理につながります。 mymc(https://mymc.jp/outpatientconsultation/travelers/typhoid-fever/)
参考:国立感染症研究所 腸チフスワクチン情報
国立感染症研究所トラベルクリニック|腸チフスワクチンの効果・種類・接種タイミングについて詳しく解説
腸チフスワクチンで副反応が出ても、国の補償制度は使えません。
日本国内で製造・承認された腸チフスワクチンは現在存在しません。 Typhim Viも Typbar TCVも、いずれも輸入ワクチンであり、国の予防接種健康被害救済制度(予防接種法に基づくもの)の適用外です。重篤な副反応が生じた場合、患者が頼れる補償の仕組みは各ワクチン輸入会社による独自の補償制度のみとなります。 ukaiclinic(https://ukaiclinic.com/typhoid/)
厳しいところですね。
医療従事者がこのワクチンを使用・推奨する際には、以下の点を事前に患者へ説明しておくことが重要です。
接種施設として、補償制度の内容や連絡先を患者へ事前に書面で渡しておくことが訴訟リスクの軽減につながります。インフォームドコンセントを記録に残す、が条件です。
参考:東京医科大学病院 渡航者医療センター(輸入ワクチン一覧・有効期間比較表)
東京医科大学病院 渡航者医療センター|各輸入ワクチンの有効期間・接種間隔一覧を公開、腸チフスも掲載
接種歴の記録が属人管理になっている施設は要注意です。
患者の腸チフスワクチン接種歴は、国内の定期接種とは異なり公的なデータベースに登録されません。そのため、患者自身が接種記録(接種証明書・パスポートへの記載・ワクチン接種証明書アプリなど)を保管・管理していなければ、次回渡航時に「いつ打ったか分からない」という状況が生じやすくなっています。
医療従事者として、以下の管理を患者に案内することが実践的な対策になります。
また、Typhim ViからTypbar TCVへの切り替えが広がりつつある現状では、同じ「腸チフスワクチン」という記録でも有効期間が3年か5年かで異なります。 施設の接種台帳に商品名まで記録しておくことが、再接種タイミングの正確な管理に直結します。商品名まで記録するのが原則です。 ohue(https://ohue.jp/yobou/%E8%85%B8%E3%83%81%E3%83%95%E3%82%B9%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/)
さらに、海外長期赴任者のような継続的リスク保有者に対しては、赴任期間中に有効期間が切れないよう、渡航前の段階で「次回再接種推奨時期」を書面で渡すことが患者満足度とリスク管理の両面で効果的です。これは使えそうです。
参考:品川イーストクリニック(トラベルクリニック)腸チフスワクチン情報
品川イーストクリニック|Typbar TCVの接種対象・有効期間・スケジュールをわかりやすく解説