薬を中止すると、一時的に症状が悪化して「中止後増悪」が起きることがあります。
遅発性ジスキネジア(TD)の症状は、まず顔面・口部から始まることがほとんどです。 具体的には「繰り返し唇をすぼめる」「舌を左右にねじるように動かす」「口をもぐもぐさせる」「眉をひそめる」「口を突き出す」といった動作が自分の意思とは無関係に繰り返されます。 td-searchlight(https://td-searchlight.jp/about/symptoms.html)
これらは不随意運動であるため、患者が自力で止めようとしても止めることができません。 重要なのは、ストレスが強い状況では症状が増悪する一方、睡眠中には消失するという特徴がある点です。 この「睡眠中に消える」という事実は、機能性疾患との鑑別にも有用な情報です。 medicaldoc(https://medicaldoc.jp/cyclopedia/disease/d_other/di0989/)
口部の症状が断然多いということですね。 ただし、遅発性アカシジアや遅発性ジストニアは「口や舌の異常」ではないため、見落とされやすい点に注意が必要です。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000245263.pdf)
TD Searchlight「遅発性ジスキネジアはどのような症状がみられますか?」(ヤンセン提供の患者・医療者向け情報サイト):口部・四肢・呼吸性の各症状を分かりやすく表で分類しています。
顔面・口部から始まった症状は、進行とともに手・足・体幹へと広がっていきます。 手足の不随意運動は舞踏様(コレアアテトーゼ様)の動きを呈し、患者の日常生活動作(ADL)を著しく低下させます。これは食事・歩行・更衣などの基本動作に直接影響します。 medicaldoc(https://medicaldoc.jp/cyclopedia/disease/d_other/di0989/)
また、呼吸性ジスキネジアは「見た目では遅発性ジスキネジアとは分かりにくい」とされており、不規則な呼吸や息苦しさとして主訴されるため、呼吸器疾患として誤認されるリスクがあります。症状の多様性を常に念頭に置くことが原則です。 td-searchlight(https://td-searchlight.jp/about/symptoms.html)
メディカルドック「遅発性ジスキネジアになりやすい人の特徴」:顔面から四肢への症状拡大プロセスを含む、医師による解説記事。
発症頻度については複数の報告がありますが、抗精神病薬の長期投与を受けた患者全体では10〜35%に生じるとされています。 世界的な研究では、抗精神病薬使用患者の約4人に1人(25.3%)に遅発性ジスキネジアがみられるという報告もあります。 意外ですね。 td-searchlight(https://td-searchlight.jp/about/sick.html)
日本人に限定した研究では、統合失調症で治療を受けている人の6.5%に発症するとの報告があります。 この数字は欧米と比較して低い傾向がありますが、高齢化が進む日本では今後リスク母数が増大する可能性があります。 td-searchlight(https://td-searchlight.jp/about/sick.html)
患者側のリスクファクターを整理すると、以下のようになります。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=823)
| リスクファクター | カテゴリ | 備考 |
|---|---|---|
| 加齢 | 患者属性 | 高齢者ほど発症・遷延しやすい |
| 女性 | 患者属性 | 閉経後は特にリスク上昇 |
| 気分障害の合併 | 基礎疾患 | 統合失調症より高リスクとの報告あり |
| 器質的脳疾患 | 基礎疾患 | 認知症・脳血管障害など |
| アルコール乱用歴 | 生活習慣 | 依存・乱用歴がリスク増大 |
| 錐体外路症状の既往 | 薬剤反応 | 治療早期のEPS出現はTDリスクの前兆 |
| 定型抗精神病薬の使用 | 薬剤種 | 非定型薬よりも発症率が高い |
治療早期に錐体外路症状(EPS)が出た患者は、のちのTD発症リスクが高い傾向があります。 これはEPS出現をTDの前兆サインとして捉え、早めに薬剤変更を検討すべき根拠になります。これは使えそうです。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=823)
ClinicalSup「遅発性ジスキネジア|症状、診断・治療方針まで」:危険因子と診断ポイントを網羅した医療者向け情報。
診断で最も重要なのは「原因薬剤の使用歴を確認すること」です。 向精神薬(抗精神病薬)以外にも、制吐薬(メトクロプラミドなど)・抗うつ薬・抗てんかん薬・カルシウム拮抗薬など、幅広い薬剤がTDを引き起こし得ます。 薬剤歴の把握が基本です。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_22222)
見落としが特に多いのが「制吐薬によるTD」です。入院患者や消化器疾患の患者に頻用されるメトクロプラミドは、ドパミン受容体ブロッカーとして長期連用するとTDリスクが生じます。消化器科・内科での注意が必要なポイントです。
診断基準(Schooler-Kane基準)では以下の条件を満たすことが求められます。
「3カ月以上」というのが原則ですが、高齢者では1カ月という短期間でも発症することがある点は特に覚えておくべき事項です。 また、抗精神病薬を中止または減量した後に一時的に症状が顕在化・増悪する「マスキング解除」現象(withdrawal-emergent dyskinesia)との鑑別も現場では難しいことがあります。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_22222)
PMDA「重篤副作用疾患別対応マニュアル 遅発性ジスキネジア」:診断基準・リスクファクター・対処法を網羅した公式文書。
TDの治療は3本柱で考えるのが基本です。 ①原因薬剤の減量・中止、②TDリスクの少ない薬剤への変更(クエチアピン、アリピプラゾールなど)、③症状に対する薬物療法(対症療法)の順で検討します。 td-searchlight(https://td-searchlight.jp/about/treatment.html)
ただし、精神疾患の治療継続のために原因薬剤を中止できないケースは非常に多いです。そこで重要な選択肢となるのが、2022年6月に国内で承認されたVMAT2阻害薬「バルベナジン(ジスバル®カプセル40mg)」です。 日本はアメリカに続き世界で2番目に承認した国であり、現在TD治療の第一選択肢として位置づけられています。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_63675.html)
バルベナジンの作用機序はシンプルです。
それ以外の対症療法として、クロナゼパム(1〜4mg)やクロニジン(150〜300μg)の単独または併用投与も行われますが、これらは保険適応外使用である点に注意が必要です。 またアマンタジン塩酸塩も検討可能とされています。 保険適応の有無を確認するのが条件です。 seiwakai-shimane(https://seiwakai-shimane.com/blog/?page_id=177)
最新の病態研究では、2025年に弘前大学のグループが「直接路を構成する神経終末の構造的変化」がTD発症に関与するという新しいモデルを発表しており、今後は直接路を標的とした新規治療薬の開発も期待されています。これは医療従事者として注目しておきたい情報です。 hirosaki-u.ac(https://www.hirosaki-u.ac.jp/topics/108898/)
ヤンセン「ジスバル®カプセル40mg発売のお知らせ」:バルベナジンの作用機序と国内承認の経緯が記載されています。
弘前大学「遅発性ジスキネジアの発症機序の解明」:従来の間接路モデルを超えた直接路関与の新病態モデルを発表。最新エビデンスとして活用できます。