実はビアーズ基準日本版には現場でほとんど使われない薬が多数リストアップされています。 cont.o.oo7(https://cont.o.oo7.jp/36_2/p467-472.pdf)
ビアーズ基準 日本版は、2008年に国立保健医療科学院の今井博久疫学部長とマーク・H・ビアーズ博士との共同研究によって開発されました。この基準は、高齢者における潜在的に不適切な医薬品の使用を認識し、薬物有害事象を減少させることを目的としています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
開発の背景には、米国で年間約10万症例が薬物関連で死亡し、そのコストが850億ドル(約10兆円)にも達するという深刻な状況がありました。日本でも17の介護保険施設で約21%に不適切な薬剤処方が行われていたことが報告されています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
つまり高齢者医療の安全性向上が急務だったということですね。
開発方法は、米国のビアーズ基準2003年版を評価し、日本の薬剤事情を加えて専門家により判断するという手順で進められました。MEDLINEを用いた文献探索(システマティック・レビュー)を実施し、候補薬剤が適切であるかを選定する質問票を用意して選考しました。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
日本版ビアーズ基準は2つの基準から構成されています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
常に使用を避けるべき薬剤(一般不適切薬)
- 長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬:高齢者において半減期が非常に長く、長期間に渡り鎮静作用を示して転倒及び骨折のリスクが高まるため ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
- ペンタゾシン(ソセゴン):中枢神経系の副作用の頻度が非常に高い ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
- チクロピジン(パナルジン):アスピリンと同等であるが毒性が非常に強い ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
リスクがベネフィットを上回るから避けるべきということです。
疾患や病態によって使用を避けるべき薬剤(特定不適切薬)
- 認知症患者へのベンゾジアゼピン:症状の悪化リスク ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
- 腎機能低下患者へのH2ブロッカー:米国版にはなく日本独自に追加された不適切薬 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
- 頻尿・尿失禁患者への抗コリン作用薬:症状の増悪、失神、転倒などを起こす ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
代替薬としては、長時間作用型より短時間作用型のベンゾジアゼピン、NSAIDsの代わりにCOX2選択的阻害薬などが推奨されています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
2010年以前は、ポリファーマシーや潜在的に不適切な医薬品(PIM)の問題に医師の関心は高くありませんでした。しかし、日本版ビアーズ基準の紹介、日本医師会の手引き(2017年)の発行、厚生労働省の指針(2018年)によって、高齢者に対する適切な薬物治療の実施に向けた機運が高まりました。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2024/3556_04)
日本版ビアーズ基準を作成する専門家委員会では、以下の5つの薬剤カテゴリーについて特に検討しました。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2024/3556_04)
- ①総合感冒薬
- ②ステロイド性消炎鎮痛薬
- ③漢方製剤
- ④便秘薬
- ⑤アルツハイマー型認知症薬
総合感冒薬はさまざまな成分を含むため、過剰摂取や予期せぬ副作用のリスクがあると指摘されています。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/application/files/5917/0901/7697/3556_04.pdf)
日本のポリファーマシーや抗精神薬の誤用、循環器薬・消化器薬の乱用という背景を反映して、これらの薬剤が不適切な処方の一つとして採用されました。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
フジ虎ノ門健康増進センターの齊尾武郎医師は、ビアーズ基準日本版に対して「未熟なコンセンサスガイドライン」として厳しい批判を展開しています。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2024/3556_04)
現場でほとんど使われない薬剤が多数含まれているという問題があります。例えば、メタンフェタミン(ヒロポン)、ペモリン(ベタナミン)、マジンドール(サノレックス)などは、高齢者に使用すべき病態に出会うことがなく、一般成人に対する使用経験に乏しい医師が多い薬剤です。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2024/3556_04)
臨床家に「診療現場の実態を反映しないナンセンスなリスト」という印象を与えてしまいます。
一方で、臨床現場に必須と考えられる薬剤も不適切薬としてリストアップされています。ロラゼパム(ワイパックス)は半減期が短く代謝が単純なので高齢者の抑うつや心気症状などに使いやすい薬剤です。アセチルサリチル酸(アスピリン)は、効果についても副作用についても臨床的エビデンスがもっとも揃った医薬品の範例となる薬剤であり、不適切薬として挙げるにはふさわしくないと指摘されています。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2024/3556_04)
さらに、OTC薬として市販されている薬剤も含まれています。シメチジンはセンロックエース、パンシロンH2ベストなどとして市販され、塩酸ジフェンヒドラミンはドリエル(睡眠改善)として一般用医薬品として市販されています。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2024/3556_04)
これらの薬が医師の処方でも危険なら、OTC販売も禁止すべきという矛盾が生じますね。
日本版ビアーズ基準は「エビデンス」ではなく7名の専門家委員会による「コンセンサス」によって選択された薬剤リストです。開発者の今井博久氏は、方法論に恣意的な点はまったくなく、妥当性と論理性と透明性を備えた科学的な方法論と考えていると述べています。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paperplus/archive/y2024/Beers_01)
専門家による評価には、リッカート・スケールという方法が用いられました。各薬剤について「強く同意する」「同意する」「どちらともいえない」「同意しない」「強く異議を唱える」の5段階で評価し、95%信頼区間の上限が3未満の場合にその薬剤を潜在的に不適切な医薬品(PIM)として定めました。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
ちょうど3が含まれる場合は対面方式で専門家に集まってもらい、デルファイ法でディスカッションをして絞り込むという方法で評価されました。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%E5%9F%BA%E6%BA%96)
しかし、米国のビアーズ基準もエキスパート・コンセンサスガイドラインであることから、その妥当性が必ずしも担保されず、様々な臨床環境で有用性の検討(アウトカム研究)が続けられています。メタ分析をしても研究の質が一定せず、本リストの有用性について確定的な結論が得られていないという批判もあります。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2024/3556_04)
日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」
日本老年医学会が2015年に公表したガイドラインでは、ビアーズ基準の考え方を踏まえつつ、より実践的な処方適正化ツールが提示されています。75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイルから要介護状態の高齢者に対し、特に慎重な投与を要する薬物のリストが掲載されています。 mixonline(https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=52329)