クラスB(メタロβラクタマーゼ)だけが「βラクタマーゼ阻害薬で抑えられない」という事実を知らずに投薬すると、あなたの選んだ薬が全く効かない事態になります。
βラクタマーゼは、βラクタム系抗菌薬(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系・モノバクタム系)のβラクタム環を加水分解して、薬剤の抗菌活性を失わせる酵素です。 細菌がこの酵素を産生することで、抗菌薬が標的である細胞壁合成酵素(PBP)に到達できず、治療が無効になります。 jscm(https://www.jscm.org/journal/full/02403/024030171.pdf)
つまり「耐性の根本原因」です。
βラクタマーゼには現在、数千種類以上の型が報告されており、単純な「あるかないか」だけでは臨床対応が不十分です。 どの抗菌薬を分解するのか、阻害薬が効くのかを知るためには、分類体系を理解することが不可欠です。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/13-%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC/%CE%B2-%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%A0%E7%B3%BB%E8%96%AC%E5%89%A4%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81)
分類を知ることが治療選択の第一歩です。
Ambler分類はアミノ酸配列の相同性に基づき、クラスA・B・C・Dの4クラスに分けます。 それぞれのクラスが「どの抗菌薬を主に分解するか」は以下の通りです。 pref.aichi(https://www.pref.aichi.jp/eiseiken/67f/esbl.html)
| Amblerクラス | 活性中心 | 主な基質 | 代表的な酵素 |
|---|---|---|---|
| クラスA | セリン残基 | ペニシリン系(変異でESBLも含む) | TEM型、SHV型、CTX-M型 |
| クラスB | 亜鉛イオン(メタロ型) | カルバペネム系・セファロスポリン系 | IMP型、VIM型、NDM型 |
| クラスC | セリン残基 | セファロスポリン系(AmpC型) | AmpC、CMY型 |
| クラスD | セリン残基 | オキサシリンを含むペニシリン系 | OXA型 |
city.fukuoka.med.or(https://www.city.fukuoka.med.or.jp/kensa/ensinbunri/enshin_59.pdf)
クラスBだけは例外です。
クラスA・C・Dは活性中心にセリン残基を持つ「セリンペプチダーゼ」として機能しますが、クラスBは亜鉛イオンを活性に必須とする「メタロβラクタマーゼ(MBL)」です。 この違いは、βラクタマーゼ阻害薬(クラブラン酸・スルバクタム・タゾバクタム)に対する感受性に直結します。クラスB酵素はこれらの阻害薬では抑えられません。 eiken.co(https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM0704-02.pdf)
クラスAについては、TEM型が126種類、SHV型が90種類、CTX-M型が59種類(報告時点)と非常に多様な変異型が存在します。 このことが、一つの検査だけでESBLを断定することを難しくしている理由の一つです。 eiken.co(https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM0704-02.pdf)
多様性の把握が感染管理の鍵です。
Bush-Jacoby-Medeiros分類(BJM分類)は、酵素が加水分解できる基質と阻害剤への感受性をもとに機能的に分類したものです。 Ambler分類が「構造」で整理するのに対し、BJM分類は「何が効くか・効かないか」という臨床的視点で整理されています。 hospi.sakura.ne(http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-takatsuki-201005.pdf)
どちらの視点も必須です。
主なグループの対応関係は以下の通りです。
jscm(https://www.jscm.org/journal/full/02403/024030171.pdf)
グループ2brは特に注意が必要です。クラブラン酸耐性を獲得したTEM型変異体はβラクタマーゼ阻害薬配合製剤(AMPC/CVA、PIPC/TAZなど)を使っても酵素活性が抑えられないため、臨床では耐性として扱う必要があります。 「阻害薬を入れたから大丈夫」という判断が誤りになる典型例です。 jscm(https://www.jscm.org/journal/full/02403/024030171.pdf)
これは見落としやすいポイントです。
ESBLとAmpCはどちらも「セファロスポリン系を分解する」という点で混同されやすいですが、分類上も機能上も別物です。 kanto.co(https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno8_pdf14.pdf)
結論は「分解の仕組みが異なる」です。
kanto.co(https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno8_pdf14.pdf)
hosp.kagoshima-u.ac(https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/bacteria/betalactamase.htm)
注意が必要な場面です。
近年、クラスD(OXA型)とクラスBのメタロβラクタマーゼが感染症診療において急速に重要性を増しています。これは「従来の分類の常識」が通用しない耐性パターンを示すためです。
OXA型はクラスDに分類され、本来はオキサシリンなどのペニシリン系を主基質とします。 しかし、OXA-48・OXA-23・OXA-24などの変異型では、カルバペネム系抗菌薬を加水分解する能力を獲得しており、Ambler分類上はクラスDでありながらカルバペネム耐性を示します。これはAmbler分類の「基質予測」が変異によって崩れる実例です。 pref.aichi(https://www.pref.aichi.jp/eiseiken/67f/esbl.html)
意外ですね。
メタロβラクタマーゼ(クラスB)の代表であるIMP型・VIM型・NDM型は、カルバペネム系を含む事実上すべてのβラクタム系抗菌薬を分解します。 NDM(New Delhi Metallo-β-lactamase)は2009年にインドで初報告され、現在は世界中に拡散しています。既存のβラクタマーゼ阻害薬(クラブラン酸・タゾバクタムなど)は無効であり、治療にはコリスチン・ホスホマイシン・アジスロマイシンとの併用が検討されます。 jscm(https://www.jscm.org/journal/full/02403/024030171.pdf)
選択肢が非常に限られます。
医療従事者がこの分類を実務に活かすには、検出された耐性菌のクラスを確認したうえで、阻害薬配合ペニシリンや第3・4世代セファロスポリンへの依存が適切かを再評価する習慣が重要です。感染症専門医や薬剤師との連携で、クラスBやOXA型変異体が関与する場合は早期にコンサルテーションする体制が実用的です。
βラクタマーゼ分類に関する権威性のある参考情報として、下記のリソースが有用です。
日本臨床微生物学会によるβラクタマーゼの機能分類の詳細解説(Bush-Jacoby分類との対応表を含む)。
βラクタマーゼの機能分類 - 日本臨床微生物学会雑誌
関西医科大学によるESBL産生菌に対するAmbler分類の図解と治療薬選定の解説。
愛知県衛生研究所によるESBL産生菌の分類と菌種ごとの特徴。
ESBL産生菌とは - 愛知県衛生研究所