アルドステロン過剰とアルカローシスの患者は、カリウムが正常でも原発性アルドステロン症(PA)を否定できません。
アルドステロンは副腎皮質球状帯から分泌されるミネラルコルチコイドで、腎集合管の主細胞に作用してナトリウム(Na⁺)再吸収とカリウム(K⁺)排泄を促進します。 これが原発性アルドステロン症(PA)の基本病態です。 saiseikai.or(https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/primary_aldosteronism/)
アルカローシスが生じる機序は二段階あります。 まず、アルドステロンが集合管α間在細胞を刺激し、H⁺の尿中分泌を亢進させます。次に、Na⁺再吸収に伴う管腔内陰性電位が電気化学的勾配としてH⁺排泄をさらに後押しします。 igakukotohajime(https://igakukotohajime.com/2020/01/25/%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9-metabolic-alkalosis/)
つまり、H⁺が過剰に失われる状態です。 igakukotohajime(https://igakukotohajime.com/2020/01/25/%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9-metabolic-alkalosis/)
体外にH⁺が排泄されるほど血中HCO₃⁻が相対的に増加し、pHが上昇(アルカリ化)します。正常であれば腎臓がHCO₃⁻を尿中に排泄して恒常性を維持しますが、アルドステロン活性が高い状態ではその代償が効かなくなります。 igakukotohajime(https://igakukotohajime.com/2020/01/25/%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9-metabolic-alkalosis/)
K⁺と代謝性アルカローシスの関係も重要です。 アルカローシスが進行すると、骨格筋などの細胞膜Na/H交換体が活性化され、細胞内からH⁺を放出すると同時にK⁺が細胞内へ移行します。これがさらに低K血症を悪化させる悪循環を形成します。 jsn.or(https://jsn.or.jp/journal/document/50_2/084-090.pdf)
低K血症が強いと症状が出ます。 口渇・多尿・筋力低下・四肢麻痺といった症状は、K<3.0 mEq/L 程度から顕在化することが多く、医療従事者が最初に気づくきっかけになります。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_27606)
医療従事者の間でよくある思い込みがあります。「原発性アルドステロン症なら必ず低K血症があるはず」というものです。しかし実際は、PAと診断された患者の約50%以上でカリウムは正常範囲内にあります。 hirotsu(https://hirotsu.clinic/blog/primary-aldosteronism-hypertension-hypokalemia/)
これは誤解です。 hirotsu(https://hirotsu.clinic/blog/primary-aldosteronism-hypertension-hypokalemia/)
高血圧全体の5〜10%がPAと言われており、治療抵抗性高血圧(3剤以上でも血圧コントロール不良)では実に約20%がPAを占めます。 仮に高血圧患者100人を診たとすれば、5〜10人にPAが隠れているという計算になります。東京ドームの5倍の面積に相当するほど広いスクリーニング対象と言えます。 hirotsu(https://hirotsu.clinic/blog/primary-aldosteronism-hypertension-hypokalemia/)
正常Kでもスクリーニングが必要なケースがあります。 日本内分泌学会の2021年診療ガイドラインでは、ARR(アルドステロン/レニン比)≧200かつPAC(CLEIA法)≧60 pg/mLを陽性とし、ARR 100〜200 かつ PAC≧60 pg/mLも「境界域」として暫定的に陽性扱いとしています。 j-endo(https://www.j-endo.jp/uploads/files/news/20210823.pdf)
従来はPAC≧120 pg/mLをカットオフとしていましたが、2021年改訂ではPAC≧60 pg/mLへ引き下げられ、スクリーニング感度が向上しています。この変更を知らずに旧基準で評価すると、軽症PAを見逃す可能性があります。
参考:低カリウム血症とアルドステロンの関係についての詳しい解説
カリウム異常を制するために"まず"やること(日本医事新報社)
代謝性アルカローシスを見たら、まず尿中Clで鑑別を始めます。 MSDマニュアルによると、高血圧のある患者で尿中K>30 mEq/日(30 mmol/日)を超えるなら、アルドステロン症・ミネラルコルチコイド過剰・腎血管疾患の評価が必要とされています。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%85%B8%E5%A1%A9%E5%9F%BA%E3%81%AE%E8%AA%BF%E7%AF%80%E3%81%A8%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9)
鑑別に必要な検査は明確です。
| 疾患 | PRA(レニン) | アルドステロン(PAC) | K値 |
|---|---|---|---|
| 原発性アルドステロン症 | 低値(抑制) | 高値 | 低〜正常 |
| 二次性アルドステロン症(腎血管性高血圧など) | 高値 | 高値 | 低値が多い |
| 偽性アルドステロン症(甘草過剰摂取など) | 低値 | 低値 | 低値 |
| Cushing症候群 | 低値 | 低値 | 低値が多い |
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000209227.pdf)
PAではPRA(血漿レニン活性)が抑制されている点が大きな特徴です。 アルドステロンの過剰分泌がレニン-アンジオテンシン系をネガティブフィードバックで抑制するためです。 med.toaeiyo.co(https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/disease/3-80.html)
偽性アルドステロン症との鑑別は見落とされがちです。 甘草(かんぞう)を含む漢方薬・健康食品を摂取している患者では、コルチゾールをコルチゾンに変換する11β-HSD2酵素が阻害され、コルチゾールがミネラルコルチコイド受容体を過剰刺激します。この場合はPACが低値になるため、PRAとPACを合わせて評価することが必須です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000209227.pdf)
利尿薬使用中の患者には注意が必要です。 利尿薬による低K血症では高レニン・高アルドステロンを呈することがあり、PAとは逆方向に見えます。利尿薬を中止してから再評価するのが原則です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000209227.pdf)
参考:PAの診断ガイドラインの最新情報
原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021(日本内分泌学会)
PAの治療方針はまず病型に基づいて決定します。 片側性(アルドステロン産生腺腫など)であれば腹腔鏡下副腎摘除術が根治的治療となり、両側性副腎過形成であれば薬物療法が主体となります。 saiseikai.or(https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/primary_aldosteronism/)
手術が選択できない場合は薬物療法が中心です。 saiseikai.or(https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/primary_aldosteronism/)
薬物療法の第一選択はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)です。 kusuki-clinic(https://kusuki-clinic.com/blog/%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%B3%E7%97%87%E3%81%AB%E3%81%AF2%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%81%82%E3%82%8A%E3%80%81%E6%B2%BB%E7%99%82%E6%B3%95%E3%81%8C)
- スピロノラクトン(アルダクトンA):維持量50〜100 mg/日(1日1回)。最も歴史が長く安価だが、男性での女性化乳房・性機能障害に注意が必要
- エプレレノン(セララ):選択的MRA。スピロノラクトンよりホルモン関連副作用が少ない
- エサキセレノン(ミネブロ):日本独自開発の非ステロイド型MRA。高い選択性と忍容性が特徴
MRAを使うとアルドステロンの受容体への結合をブロックするため、Na排泄が促進されてK排泄が抑制されます。 結果として代謝性アルカローシスも改善します。 kusuki-clinic(https://kusuki-clinic.com/blog/%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%B3%E7%97%87%E3%81%AB%E3%81%AF2%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%81%82%E3%82%8A%E3%80%81%E6%B2%BB%E7%99%82%E6%B3%95%E3%81%8C)
ただし、MRA使用時に高K血症が起こることもあります。 特にeGFR低下例や糖尿病合併例では要注意で、定期的な採血でK値をフォローすることが欠かせません。K≧5.5 mEq/Lでは減量・中止を検討します。 kusuki-clinic(https://kusuki-clinic.com/blog/%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%B3%E7%97%87%E3%81%AB%E3%81%AF2%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%81%82%E3%82%8A%E3%80%81%E6%B2%BB%E7%99%82%E6%B3%95%E3%81%8C)
アミロライド(カリウム保持性利尿薬)も代替選択肢の一つです。 5〜10 mg/日(1日1回)で使用可能で、主に集合管のNaチャネルを直接阻害します。MRAが使えない症例での選択肢として覚えておくと有用です。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%89%AF%E8%85%8E%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%B3%E7%97%87)
参考:代謝性アルカローシスの治療原則
代謝性アルカローシス metabolic alkalosis(医學事始)
PAは「血圧が下がれば十分」という疾患ではありません。これは重要な視点です。 hirotsu(https://hirotsu.clinic/blog/primary-aldosteronism-hypertension-hypokalemia/)
同じ血圧レベルの本態性高血圧と比べて、PA患者では心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中・心房細動)のリスクが1.5〜3倍高いとされています。 アルドステロン自体が心臓・血管・腎臓に直接障害を与える「臓器毒性」を持つためです。 hirotsu(https://hirotsu.clinic/blog/primary-aldosteronism-hypertension-hypokalemia/)
代謝性アルカローシスも単独で不整脈リスクを高めます。 低K血症と高アルカリpHが重なると、心筋の活動電位が変化し、QT延長や心室性不整脈が起きやすくなります。特に低K血症が2.5 mEq/L以下になると重篤な不整脈リスクが実臨床でも問題になります。 med.toaeiyo.co(https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/disease/3-80.html)
PAの臓器障害は血圧コントロールだけでは防ぎきれない部分があります。 このため、PA確定診断後に両側性で手術非適応の症例でも、血圧目標達成に加えてMRAによるアルドステロン受容体のブロックが不可欠とされます。 hirotsu(https://hirotsu.clinic/blog/primary-aldosteronism-hypertension-hypokalemia/)
実際のスクリーニング機会は外来診療にあります。治療抵抗性高血圧、ARR測定の機会として、血圧管理に難渋するケースではPA除外を積極的に検討することが、長期的な心血管イベント減少につながります。 hirotsu(https://hirotsu.clinic/blog/primary-aldosteronism-hypertension-hypokalemia/)
参考:原発性アルドステロン症の臨床像と心血管リスクについて
原発性アルドステロン症とは(済生会)
原発性アルドステロン症(MSDマニュアル プロフェッショナル版)